領域代表挨拶

領域代表 大隅典子

領域代表

東北大学大学院医学系研究科 
発生発達神経科学分野
教授 大隅典子

ゴーギャンは「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」という畢生の大作を描きました。「われわれは何者か?」という問いの中には、普遍性と固有性が潜んでいます。「人間は他の動物とどのように似ており、どのような点が異なるのか?」、「日本人は白人とどこが違うのか?」、そして究極には、「私とはどういう人間なのか?」 このような根源的な問いを解くヒントは、発生、発達と進化の理解の中にあると考えられます。

これまで心理学では、認知的能力やパーソナリティの個人差について、個別性(「個性」)の法則的な理解を試みてきましたが、現象の記述的説明レベルにとどまっており、その神経生物学的基盤については未だ十分には明らかにされていません。人間に、そして動物にもみられる「個性」(個体差)の問題については、脳・神経学的アプローチによっても未だ十分には検討されておらず、今後の最重要な課題となっています。一方、近年の情報科学分野の進展は、ハードウエアの革新と相まって、いわゆる「ビッグデータ」の時代を迎えています。今まさに、遺伝子情報、脳の形態的情報や、対応する表現型形質である認知・行動的情報をビッグデータとして加えることで、ヒトの「個性」の普遍性と固有性を、他の動物との共通性と差異を含めて、多面階層的に多様な領域から検討することが可能になると考えられます。

私たちは「個性」が創発するメカニズムを理解するための学際融合的な研究領域、すなわち「個性創発学」を立ち上げます。成人の心理学や乳児の発達脳科学、神経発生や神経新生、ビックデータや数理工学解析等の既存の分野を融合させた「個性創発学」分野は、広く教育学、人文学、医学、情報学等の周辺学問領域に大きな影響を及ぼす飛躍的な発展が見込まれます。また、領域の研究成果をもとに国際的なデータシェアリングプラットフォームを構築し、国際社会に大きな貢献を果たしたいと思います。本研究の成果により、社会において多様な「個性」の科学的理解を有効に活かすことが可能になると考えられます。一方、このような「個性」に関する科学的知見は社会において慎重に取り扱われる必要があるため、「個性」に関わる科学情報の発信・利用に伴う倫理的・法的・社会的問題(ELSI: Ethical, Legal and Social Issues)を検討し、社会的合意形成のための基盤を提供したいと思います。

今後、領域内外の多様なバックグラウンドを有する研究者の間で、また研究者と市民との間で展開される「個性」に関する議論について本HPにおいて公開していきます。どうぞ、領域の進展にご協力、ご支援を賜れば幸いです。