活動

2017年4月17日

国際連携活動報告:パスツール研究所訪問記

鹿児島大学法文学部人文学科
講師・菅野康太

昨年度の末、2017年3月26日から3月30日まで、フランス・パリの15区にある、パスツール研究所を訪問してきました。本領域では国際連携によるデータシェアリングプラットフォームを構築し、研究成果を多くの研究者に公開・シェアすることを目指しており、今回の訪問もその一環として行いました。近年、マウスを用いた疾患モデル研究においても、社会性の研究が盛んに行われていますが、私が専門とするマウスの音声コミュニケーションも、その文脈で関心をお持ちの方がおられると思います。パスツール研究所のThomas Bourgeron教授が主宰するHuman Genetics and Cognitive Functions (Génétique Humaine et Fonctions Cognitives) の研究室では、Elodie Ey博士を中心に、mouseTubeというプラットフォームを運営しています。

このプラットフォーム上では、すでに発表されている論文で使用されたマウスの音声データが、実験条件や使用された系統などのメタデータとともにアップロードされており、登録した研究者であれば誰でも使用することができます。ここにアップされている音声データを解析して論文を書くことも可能です。その目指すところは、youTube動画でも解説されているので、ぜひ上記リンクをご覧ください。本領域では、このmouseTubeを通したデータシェアに関して連携していきたいと考えており、まずは日本の窓口を私共が開設する予定です。データを保存するためのサーバを提供するところから始めていきたいと思っています。

今回の滞在で、具体的にどのような連携をするか、サーバ運営の技術レベルでの打ち合わせも行いましたが、マウスの音声コミュニケーションや社会行動研究自体の動向についてもEy博士とかなり突っ込んだ議論ができ、個人的に非常に有意義なものとなりました。

また、主宰のBourgeron教授とも多くの時間を過ごし、彼の近年の研究、特に自閉症に関する遺伝学的な研究について直接プレゼンをしてもらいました。そこで驚いたことは、mouseTube以外にも、web上で使用可能な研究ツールやデータシェアリングプラットフォームを、すでに複数運営していたことです。例えば、脳内のタンパク相互作用マップを示してくれるもの、霊長類間でDNA配列が異なる部分を可視化して示してくれるもの、自閉症者のある個人に見られる遺伝子変異を対照群や他の自閉症者のDNA配列と比較できるもの、ヒトを含んだ複数の動物、ライオンやフェレットなどのMRI画像を見ることができるツールなど、いろいろ見せてもらいましたが、正直まだ全てを理解できてはいない状況です。詳しくは、ラボHPのSoftwaresやToolsというところを参照ください。今後、私も研究に具他的に使っていきたいところですが、驚いたことのもう1つは、インターフェースの良さでした。高解像度で、ウィンドウの見た目も良く、他のメンバと別々の端末で同じ画像を動かしたりメモしたり、全てが同期するものもあります。それらプロジェクトに関わる研究者・開発者の何人かとも話をすることができました。

いろいろなメンバと話し、滞在した中で、一番の驚きは、同じラボの中に、マウスの行動解析をする人がいて、一般的な分子生物学や生化学、組織学をやれる人がいて、遺伝学をやる人がいて、数理解析やソフトウェア開発もできるエンジニアもいるという、メンバの多様性でした。社会脳に関することならなんでもやるというこの感じ。ゼミにも参加させてもらいましたが、1つのラボとは思えないくらい、技術面での話題が多様。話題の様相がすぐに変わる。この多様性、専門性の幅の広さに関し、博士課程の学生さんも未だに「驚く」と言うし、主宰のBourgeron教授自身も「驚く(笑)」とのこと。また、メンバのうちの何人かはアーティストとしての活動もしていて、それがソフトウェアのインターフェースの良さにも繋がっていると実感しました。とても個性的。

また、コミュニティづくりにも熱心でBrainhackというイベントのパリ大会を運営しているメンバもいました。Brainhackは、(生物学寄りの)脳の研究者とエンジニアのコミュニケーションを促し、インフォマティクスを活かした研究を促進するためのコミュニティのようです。パリ大会ではリハビリ研究者でセラピストでもあるボディペインターなども参加していて、その作品はwebで見る限り圧巻。大会webサイトも非常におしゃれ。

今回の滞在では、主たる目的であった国際連携のための技術的な打ち合わせのみならず、いろんなメンバの研究の話を聞き、自分の研究の話しなども少し披露させてもらいました。本領域のことも宣伝させてもらい、応援もしていただき、非常にencouragingな時間となりました。彼らは、バックグラウンドが異なる研究者でありながらディスカッションを非常にフランクに、日々自由にしている印象で、このようなコミュニティづくりというものも、本領域の日本における役割ではないかと感じました。今後、データシェアリングプラットフォーム構築の過程で、そのようなコミュニティづくりにも寄与することができれば幸いです。

パスツール研究所にて Thomas Bourgeron教授と