活動
2017年11月2日
2017年10月29日に日本社会心理学会第58回大会にて本領域支援シンポジウムが開催されました
2017年10月29日(日)に日本社会心理学会第58回 大会(会場:広島大学)にて本領域支援シンポジウムが開催され、本領域から大隅領域代表(A02)、保前先生(A01)、郷先生(A03)がシンポジストとして登壇しました。
「多様な<個性>を創発する分子・神経・社会基盤の統合的理解を目指して‐複合領域研究の推進‐」
司会:
中島健一郎(広島大学大学院教育学研究科)
話題提供者:
保前文高(首都大学東京大学院人文科学研究科)
郷康広(自然科学研究機構新分野創成センター)
大隅典子(東北大学大学院医学系研究科)
指定討論者:
亀田達也(東京大学人文社会系研究科)
概要:
平成28年度に発足した新学術領域「多様な<個性>を創発する脳システムの統合的理解」では、脳神経系発生発達の多様性や介入によるゆらぎを解明し、集団における「個性」成立の法則やその意義を明らかにし、「個性創発学」とも呼べるような新たな学術領域を切り拓きたいと考えている。今回、日本社会心理学会のシンポジウムには3名の計画研究代表者が人文社会系、生物系、理工系の立場から領域の概要について発表し、本学会の参加者と「個性」の創発されるメカニズムについて議論したい。
「個性」への興味は人間にとって根源的なものである。さまざまな「個性」は、ゲノムの個体差が元になっているが、育ち方や生活習慣等の環境的要因によっても、その現れ方は変化する。これは、環境によって遺伝子の働き方が異なる「エピゲノム」機構が存在するからである。目や髪の色のようにわかりやすい身体的特徴だけでなく、認知的能力やパーソナリティなど、脳神経系の機能に依存した心的機能においても「個性」は認められる。このような心的機能の神経基盤や遺伝的・環境的背景については、未だ十分には明らかにされていない。しかしながら近年、情報科学技術の向上により「ビッグデータ」を扱える時代となり、ヒトの脳画像等のデータや動物の各種行動観察データ、神経活動データ等の膨大なデータを集めて、多変量統計解析やデータ駆動型研究を行うことが可能となった。そこで我々は、今こそが「個性」の研究に取り組む好機と捉え、新学術領域・複合系において本領域を立ち上げることとなった次第である。
本新学術領域研究では、人文社会系、生物系、理工系の研究者が密接に連携することにより、脳神経系発生発達の多様性を解明し、「個性」創発の理解に繋げたいと考えている。 言うまでもなく、「個性」の理解には人間を対象とした研究が必須であるが、それだけでは「個性」がどのように創発するのか、そのメカニズムに迫ることは難しい。ヒトと動物に共通したモデルを立てることにより、ヒトだけを対象にした従来の研究では扱うことが難しかった集団内の不適応や次世代への継承、ヒトに至る進化などの問題に関して、種々の介入等が可能な動物を対象とした研究により取り組むことを可能にすると我々は考える。
これまで、動物を対象とする研究者は心理学等の研究者との接点が少なく、パーソナリティ研究等を十分に理解した上で適したモデルを立てたり解析手法を精緻化させてきたとは言い難い。逆に、生命現象の分子メカニズムの理解が心理学に貢献できると考えていない研究者もいるように感じられる。本新学術領域には、きわめて多様なバックグラウンドを持つ本領域の研究者が参画することを通じて、「個性」についての複合的な研究を推進していきたいと考える。例えば、子どもが言葉を獲得する過程における個人差がどのようにして生じるのかについて、齧歯類や鳴禽の音声コミュニケーションの研究が役に立つかもしれないし、齧歯類や非ヒト霊長類のゲノム情報や、脳におけるその働き方を調べるというアプローチもあるだろう。
本新学術領域はまた、研究期間内に得られたデータに関して、データシェアリングの仕組みを構築する。これにより、将来的に他の研究者にもデータ共有を可能にし、ヴァーチャルな「知の集合体」を形成することによって、国際社会にも大きな貢献を果たすことが期待される。なお、「個性」に関する科学的知見は社会において慎重に取り扱われる必要があるため、「個性」に関わる科学情報の発信・利用に伴う倫理的問題を検討し、市民公開講座等の開催により、社会的合意形成のための機会を提供する。