活動

2018年5月2日

第1回市民公開講演会「科学者として/当事者として研究すること」 概要

報告:原 塑

2018年3月25日(日)、福武ホール・福武ラーニングシアターにおいて、第1回市民公開講演会「科学者として/当事者として研究すること」を開催しました。講演者は熊谷晋一郎先生(東京大学先端科学技術研究センター)、大隅典子領域代表が講演会に続く対談の相手方を務めました(私は司会という立場で参加しました)。講演会当日は日差しが強く、桜が満開となった温かな日で、会場がある東京大学本郷キャンパスは大勢の観光客でにぎわっていましたが、講演会には70名以上の参加者が集まり、盛会でした。

熊谷先生は小児科医であり、同時に、脳性まひ当事者の立場から人間について研究を進める当事者研究を推進する研究者でもあります。講演会では、ご自身の来歴を語られた後、主に自閉症スペクトラム症を例として、ご自身が現在行なわれている研究の詳細な内容や、当事者研究の研究としての意義、また社会実践としての意義について多彩な角度から、紹介・議論されました。講演内容については、熊谷先生のご講演要旨をご覧下さい。講演を拝聴して私が受け取ったメッセージは、講演タイトルが示唆するように、当事者研究においては、当事者の方々が自分や仲間の人びととともに、自分たちがかかえている問題について研究を行い、科学的発見をすることと、回復することが、表裏一体の関係にあるということでした。

講演会に続く対話のパートは、自閉症スペクトラム症の発症と父加齢との関連に関するマウスを使った実験に関する大隅領域代表による紹介からはじまり、動物を使った実験と当事者研究とがどのような関係にたつことが双方にとって有意義かが議論されました。私の事前の見込みとして、動物実験と当事者研究を有意義な仕方で統合するのは難しいのではないかと感じていましたが、対談を拝聴して、その予期が裏切られ、共同への明るい展望がえられたことが大きな収穫でした。

Recovery is Discovery:科学の民主化とリカバリー

直面する苦労の解決を拙速に求めて専門家に丸投げするのではなく、当事者みずからが研究対象としてとらえなおし、仲間とともに、その解釈や対処法を編み出していく当事者研究。それは、専門家に独占されてきた研究の民主化であるとともに、発見(discovery)と回復(recovery)が分かちがたく結びついた実践でもある。研究の民主化は、前提となるパラダイムをどのように変更させるのか。わかりやすい課題解決に貢献する研究が偏重されがちな現代において、「拙速な苦労の解消を求めるよりも、苦労のメカニズムを知ろうとする態度が回復をもたらすことがある」という当事者研究の視座は、どのような含意を持つのか。当事者と専門家の関係は、両者が無知の知を自覚した研究者になったときにどのように変化するのか。自閉スペクトラム症の当事者研究を例に、最近の展開の一端を紹介する。

市民公開講演会看板

  • 領域代表・大隅先生の開会挨拶

  • 司会の原先生

  • 熊谷先生のご講演

  • ご講演全体像

  • 熊谷先生ご講演中の聴衆

  • 文字通訳の方々

  • 熊谷先生&大隅先生の対談

  • 対談中の熊谷先生

  • 対談全体像

集合写真