活動

2018年9月5日

日本進化学会第20回大会2領域合同シンポジウム開催報告

2018年8月24日,東京大学駒場キャンパスで行われた日本進化学会第20回大会において,シンポジウム「社会性コミュニケーション創発のためのゲノム・脳・行動進化」を開催しました.

このシンポジウムは,本領域と新学術領域「共創的コミュニケーションのための言語進化学」(略称:共創言語進化、代表:東京大学 岡ノ谷一夫教授)との2領域合同シンポジウムとして開催されました.本領域からは郷(計画代表)と和多(公募代表)が座長を務め,郷,和多,河田(公募代表),大隅(領域代表)が登壇しました.

「社会性コミュニケーション」は単細胞生物からヒトまで観察され,個体間相互作用によって形成されると考えられていますが,多様な生物種においてどのように生じたのかという起源の問題や,種を超えた共通性の問題,それぞれの機能的な意義は独立なのか共通なのかといった未解決な点が数多く残っています.本シンポジウムでは,その創発機構の解明に向け,ゲノム・脳・行動進化からの複合的・多階層的アプローチによってどのように迫りうるのか,その理解と議論を深めることを目的としました.

郷からシンポジウムの企画趣旨の説明をした後,霊長類における社会性コミュニケーションの創発と欠如に関して,精神疾患関連遺伝子における遺伝子解析の結果と行動異常などの連関を示唆したデータを示すことで,ゲノム解析からみた社会性コミュニケーション創発の種間の共通性に関する展望に関する話題を提供しました.河田先生からは,ヒトにおける「こころの個性」に関わる遺伝子の話題提供をしていただきました.ヒトに至る進化の過程で自然選択を受けた精神神経関連遺伝子,特に神経伝達物質の運搬に関与する小胞モノアミントランスポーター遺伝子の一部の多型に注目し,その多型とヒトの「精神的個性」との関係性,東北メディカルメガバンクにおいて収集されている日本人の多型データとアンケート結果をもとにした精神的個性との相関解析の結果など,大変興味深いデータをご提示いただきました.大隅先生からは,「個性創発脳」の概略と立ち上げの経緯などのご説明をいただいた後,マウスを用いた父親の加齢が次世代のこどもの行動へ与える影響を,超音波コミュニケーション行動変化などを例に話題提供いただきました.特に,高齢の父マウスから生まれた仔マウスは,多様な行動パターンを示すこと,そのばらつき方が一様ではないことが「個性」の一端を示していること,加齢父の精子全メチル化解析から明らかになってきたエピジェネティクス機構などのデータをご提示いただきました.和多先生からは,感覚運動学習における個体差創発機構を解明するためのモデルとして,鳴禽類ソングバードの歌学習個体差研究の話題提供いただきました.ソングバードは種に固有の歌がある一方,種内では個体差ともよべる歌のレパートリーのゆらぎがあること,それを規定している分子機構を異種間雑種を用いて解明しようとしている研究をご紹介いただきました.最後にご登壇いただいた香田先生には,新学術領域「共創言語進化」の概要をご紹介いただき,さらにご自身の研究に関して話題提供いただきました.「共創言語進化」では,言語の起源を考える際に,言語をいくつかの下位機能に分解した上で,それらが他の動物でどのように実現されるか,そしてそれらがヒトにおいていかに統合され言語を可能にするのかを,「階層性」と「意図共有」をキーワードとして解明することが目的であることをご紹介いただきました.

社会性コミュニケーションが成立するためには,広義の「言語」を代表としたコミュニケーションツールの獲得・創発とそれらを使った他者との意図共有の重要性をあらためて考えさせられるシンポジウムでありました.社会性コミュニケーションが成立するための,①種をまたいだ共通性,②種を種として固有なものとする拘束性,そして,③拘束性のなかでの個体・個人としてあらわれてくるばらつきという個性の創発,そのいずれもがひとつの同じ土俵で階層を超えて議論できる場がそう遠くない将来にできるのはないかという可能性を感じられたシンポジウムになったのではないかと思います.

最後に,シンポジウムの企画に快くご登壇いただいた先生方とご参加いただいたみなさまにお礼申し上げます.

タイトル:社会性コミュニケーション創発のためのゲノム・脳・行動進化

「社会性コミュニケーション」は単細胞生物からヒトまで観察され,個体間相互作用により形成される.しかし,「社会性コミュニケーション」が,多様な生物種においてどのように生じたのか,また種を超えた共通性は存在するのか,など未だ未解決な点が多々ある.本シンポジウムでは,その創発機構の解明に向け,ゲノム・脳・行動進化からの多階層的アプローチによってどのように迫り得るのか,理解と議論を深めることを目的とする.

企画者:

郷康広(自然科学研究機構・生命創成探究センター)(個性創発脳 計画代表)
和多和宏(北海道大学大学院・理学研究院)(公募代表)
共催:新学術領域「個性創発脳」「共創言語進化」

登壇(*発表者)

郷康広(自然科学研究機構・生命創成探究センター)
「霊長類ゲノム研究を通して社会性コミュニケーション創発あるいは欠如とは何か考えてみる」

*河田雅圭、佐藤大気(東北大・生命)
精神疾患関連遺伝子からみるヒトにおけるうつ・不安症傾向の進化

大隅典子(東北大学大学院・医学系研究科)
父加齢の次世代行動への影響:進化に与える可能性についての考察

澤井梓1,Wang Hongdi1,*和多和宏1,2(1北大・生命科学院,2北大・理学研究院)
鳴禽類ソングバードの歌学習個体差をつくる生得的学習バイアス

香田啓貴(京大・霊長研)
社会との相互作用下で創発する霊長類のコミュニケーション

大会ホームページ:

(文責:自然科学研究機構生命創成探究センター 郷康広)

進化学会看板

郷先生

河田先生

  • 和多先生

  • 香田先生

集合写真