活動

2019年1月16日

次世代脳冬のシンポジウム4領域合同若手シンポジウム報告

名古屋大学
上田(石原)奈津実

2018年度 次世代脳プロジェクト冬のシンポジウム 「脳と社会の共創を科学する:どう仮説し、どうアプローチするか」が12月12日(水)一橋大学一橋講堂にて開催されました。このシンポジウムは4つの新学術領域、「個性」創発脳(領域代表:大隅典子先生)、共創言語進化(領域代表:岡ノ谷一夫先生)、人工知能と脳科学(領域代表:銅谷賢治先生)、思春期主体価値(領域代表:笠井清登先生)の合同で企画されており、多様な個性が生まれる脳基盤や、社会・対人環境が脳機能を発達・進化させる仕組み、およびそれらの数理モデル、シミュレーション研究など、従来の脳科学があまり扱ってこなかった領域に挑む若手研究者が演者として選出されました。各研究者の、研究成果や用いたテクノロジーの紹介だけでなく、脳と社会の相互関係についての研究に、どのような仮説でどうアプローチしたのかを中心に発表するという趣旨があり、これらの領域が結びつくことで、お互いに刺激を与え、より一層研究の幅を広げることを目的とされていたと感じました。

私は「空間弁別の分子・細胞学的基盤-個性の階層的理解を目指して-」というタイトルで、遺伝的要因と環境的要因によって形成される個性の階層的理解のため、両者の影響が示唆されている空間弁別記憶に着目し、まずは遺伝的影響を介した分子・細胞学的基盤を解明することを目指した研究成果を報告しました。さらに、個性を理解する次のステップとして環境的要因の影響に着目して進めていく研究の仮説と方法についても議論しました。共創言語進化からは金沢大学の吉村優子先生が登壇され、呼びかけに対しての子どもの脳領域の反応が異なることを発表されました。子どもが呼びかけに対して異なる反応性を示すことを知り、言語進化と個性の密接な関係性を感じました。人工知能と脳科学からは東北大学の鈴木真介先生が登壇され、他者との駆け引きを行う際の計算処理とそれに関わる脳領域が示されました。思春期主体価値からは沖縄工業高等専門学校の佐藤尚先生が登壇され、思春期の選択を対象とするモデル化の難しさが報告されました。鈴木先生も佐藤先生も計算やモデルにより神経活動を説明されることをご専門とされており、個々の事象の分子・細胞・行動レベルの解析に立脚した数理処理やモデル化が概念を理解するためには一定の法則を与えることを認識しました。

通常の学会ではなかなかご一緒する機会のない先生方のご発表ではありましたが、個性を理解するために言語獲得、計算論と脳イメージングの融合研究から明らかになる神経基盤、学習モデルという視点に立って研究の方向性を考える機会を頂き、従来の脳科学があまり扱ってこなかった領域に挑むためには新たな視点を積極的に取り入れていく必要があることを再認識致しました。今後も領域を超えた議論や情報共有を通じて、個性の理解に向けて挑戦出来ればと感じました。