活動
2019年3月22日
第2回市民公開講演会開催報告
今年度も大詰めの3月10日(日)に、第2回市民公開講演会「壊れた脳を理解する―〈個性〉としての高次脳機能障害」を開催しました。今回は、文筆家の鈴木大介さんと鈴木匡子さん(東北大学大学院医学系研究科教授・専門は高次機能障害学)のお二人をお招きし、お二人の対談という形式で、会を進めました。鈴木匡子さんは、本研究領域で、脳損傷からみた個性に関する統合的研究に精力的に取り組まれています。
鈴木大介さんはルポライターとして働いていた41歳の時に脳梗塞で倒れて、高次脳機能障害となり、その後、ご自身の症状との悪戦苦闘の取り組みを経て、文筆家として活躍されています。数多くの著作がありますが、最近出版された書籍には、『脳が壊れた』(新潮文庫、2016年)、『脳は回復する』(新潮文庫、2018年)、『されど愛しきお妻様―「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間』(講談社、2018年)があります。これらは高次脳機能障害となった体験やご家族との生活について考察したものです。その他に、阿部彩さんとの共著の『貧困を救えない国 日本』(PHP新書、2018年)もあります。
今回の対談では、鈴木匡子さんは、冒頭で高次脳機能障害とは何かについて医学的見地から簡単に解説された後、どちらかというとインタビュアーとして、鈴木大介さんから話を引き出す役に撤していらっしゃいました。ですから、全体としては、鈴木大介さんの高次脳機能障害の体験の話を伺う会という趣がありました。
印象的な話はいくつもあったのですが、特に興味深かったのが、以前にはできていたけど、脳梗塞になった後できなくなった様々なことを、リハビリテーションを通じて再びできるようになる過程を、「回復」とは呼びたくない、「再発達」あるいは「再適応」と呼びたいとおっしゃっていたことです。鈴木大介さんは、日々直面する困りごとと取り組み、解決していき、さまざまなことをできるようになる過程を「回復」と呼ぶことは以前の自分の姿への復帰を目指すことを含意してしまうが、病前と全く同じパフォーマンスを目指して挫折を繰り返すことは当事者にとって余計に大きな苦しみを抱えてしまうことになりかねないと危惧していました。加えて鈴木さんは、以前のご自身のあり方を回復したいとは考えていないということでした。高次脳機能障害の体験を経て、困りごとに直面している人々のことを、その人々の立場に立って理解できるようになった現在のあり方を、より好ましく感じているのです(とはいえ、脳梗塞に倒れた以降の苦しみを再度、体験したくはないとも付け加えていらっしゃいました)。
講演会当日、会場である福武ホールの周りは、たまたま大学入学試験の合格発表がおこなわれていたため、多くの若者で賑わっていました。外の喧騒と比較して、会場ではライトを少し暗めにして、落ち着いた雰囲気ではあったのですが、鈴木大介さんがご自身の体験を、考えながら、しかし的確に言葉にし、鈴木匡子さんがうまく話を引き出していく様子に感銘を受けました。
(文責:原 塑)
第2回市民公開講演会立看板
領域代表大隅挨拶
司会を務めた原
対談中の鈴木大介さん
真剣に聞き入る聴衆
質疑応答後に
鈴木大介さんのもとを訪れる聴衆対談をリードした鈴木匡子
今回も文字通訳による情報保障を採用
長時間の対談、お疲れさまでした
運営に携わった領域メンバーとともに