活動
2018年5月7日
第1回USVs研究会 活動報告
2018年4月28日(土)、若手の会・技術支援講習会の一環として、鹿児島大学法文学部人文学科の、わたくし菅野康太が世話人となり、同大学で第1回USVs研究会を開催しました。USVsは超音波でなされる齧歯類の音声コミュニケーション、Ultrasonic vocalizationsの略で、古くからラットやマウスの母仔間や雌雄間の行動研究で用いられてきた指標です。近年では、自閉症モデルマウスの行動解析でも用いられ、その需要が高まっています。
また、このUSVsに関する国際連携活動として、データシェアリングプラットフォームを構築中であることは、以前もフランス・パスツール研究所への訪問記としてご紹介させて頂きました。
今回は、領域以外からも関連する専門を持つ研究者と鹿児島大学の学生22名が参加し、このUSVsの研究を、個性研究や生物言語学研究、疾患モデル研究として今後どのように発展させていくべきかを議論しました。
他の新学術領域からは、「共創的コミュニケーションのための言語進化学」(代表:岡ノ谷一夫 東京大学教授)に参画する東京大学 岡ノ谷研究室の博士課程・齋藤優実さん、同研究員の橘亮輔 博士にご参加いただきました。橘博士には、私との共同研究としてUSVs自動解析のためのシステムを提供して頂いており、領域の技術支援にも使用しています。また、「共創言語進化」および「脳・生活・人生の統合的理解にもとづく思春期からの主体価値発展学」(代表:笠井清登 東京大学教授)に参画されている玉川大学脳科学研究所の飯島和樹博士にもご参加いただきました。
研究会では、まず、私から齧歯類のUSVsについての概説を行い、領域メンバの研究の現状、領域内共同研究の進捗を報告し合いました。さらに、他の場所ではあまり話し合われないような非常につっこんだ、マニアックな部分についても議論しました。例えば、領域の技術支援としても挙げている超音波の測定系・再生系の開発者である加藤建築環境研究所の加藤雅裕博士も交え、的確で安定した測定から詳細な解析、自動解析への今後の接続などについても議論がなされました。
研究会終盤では、数理モデルを用いた研究、認知研究、鳥類も含む他種の音声コミュニケーション研究の話題提供があり、今後の理論研究や比較研究の可能性についても話が広がりました。その他、研究会の議論では、「いまの解析方法のままで良いのか?」「現在の発声の分類法は適切なのか?」「病態モデルとしての評価はどのようにすべきか?」といった議論もなされました。
最後に、総合討論として、ヒトの文法や言語に関する脳機能イメージングに詳しい飯島博士から総論がなされました。その際、音声コミュニケーションにおける「文法研究」は、ヒト、霊長類、鳥類を中心に行われており、しかし、生物医学研究で齧歯類が中心的に用いられていることや進化系統樹を鑑みると、哺乳類の実験動物であるマウスやラットのUSVs研究を進めることは、生物言語学の統合的理解にとって有用である旨が指摘されました。
研究会の前後では、USVsの新たな解析方法の確立と理論的理解に向けて、一部の参加者がhack-a-thon形式で議論を行いました。
生データを持ち寄って議論がなされ、実際に、ある参加者が解析に苦心していたデータに対し、他の参加者が個性を定量比較する方法を提案するに至った例もありました。研究会が終了したいまもなお、新しい解析方法の開発に向けての議論を、ネットを介したコミュニケーションで続けています。
今回の研究会を経て、領域内外の親交と議論が深まり、専門分野の壁を超えて研究を進める機運と実現可能性が、実質的に高まったことを実感しております。