活動

2021年2月19日

「若手研究者データ解析・共有基盤創出チャレンジ」研究成果報告

バルプロ酸による精子エピゲノム変化を通した継世代影響機構の解明

計画研究A03冨永班
東北大学大学院農学研究科 動物生殖科学分野
修士2年 酒井 和哉

DNAのメチル化をはじめとしたエピジェネティック制御機構は、細胞がどの遺伝子をどのくらい使うかを決める、いわば細胞の「個性」を決定する機構といえます。近年、ストレス・栄養状態・環境化学物質などの影響で変動した親世代のエピジェネティックなDNA修飾状態(エピゲノム)が、生殖細胞を通して次世代に伝わり、何らかの表現型として表出することを示唆する報告が数多くなされています。すなわち、親世代のエピゲノムが個体の「個性」を形作る要因の一つとなっている可能性が考えられます。しかしながら、どのようなエピゲノム変化が・どのようにして・どのくらい次世代に伝わるのか、そしてそれがどういった形で表出するのかということについて明らかになっていることはごくわずかです。我々はこのエピゲノムの継世代影響機構の一端を明らかにするため、マウスを用いて様々な化学物質が雄性生殖系のエピゲノムに与える影響と、その次世代への影響について研究しています。我々はこれまでに、抗てんかん薬として用いられるバルプロ酸(VPA)のマウスへの投与が精子のDNAメチル化状態・受精後の胚のメチル化状態を変動させ、さらに生まれた次世代個体が軽度の行動変調を示すことを明らかにしました。VPAはDNA結合タンパク質であるヒストンのアセチル化を亢進させることでクロマチン構造を弛緩させる作用をもちます。この作用により各種のエピジェネティック関連因子がDNAにアクセスしやすい状況になることでエピゲノムに撹乱性の変化が起きたことが原因ではないかと推測され、現在より詳細な解析を行っています。本研究により、今まで現象のみで捉えられがちであった環境刺激と「個性」への影響、特に親世代から子世代への影響を橋渡しするような知見を提供することを目指します。