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2018年3月23日

「癌関連遺伝子」が神経前駆細胞と神経細胞の増殖・分化を制御することを発見
~遺伝子ハブMeis1による小脳神経発達の新たなメカニズム~
本研究成果は2018年1月31日に「Journal of Neuroscience」誌に掲載されました。

本領域計画研究班代表である 国立精神・神経医療研究センター 病態生化学研究部 部長 星野幹雄らの研究グループは、いくつかの癌発症に関わる遺伝子Meis1が、小脳においては神経前駆細胞から神経細胞への分化を促し、小脳発達に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

小脳は運動制御の中枢であり、そこに含まれる小脳顆粒細胞は、脳発達期に顆粒細胞前駆細胞と呼ばれる神経前駆細胞から続々と生み出され、1,000億個もの膨大な数に達することが知られています。正常な小脳機能の獲得には、脳発達の過程で適切なタイミングで適切な数の小脳顆粒細胞が前駆細胞から生み出されることが必須です。この制御がうまくいかないと髄芽腫(medulloblastoma)と呼ばれる癌が生じることが知られています。これまでの研究から、小脳顆粒細胞系の適正な増殖と分化には「Atoh1」、「Pax6」、「BMP」などの遺伝子(タンパク質)が重要であることが知られています。しかし、これらの遺伝子がどのように協調して機能するのかという仕組みについては明らかになっていませんでした。

星野部長らは、いくつかの癌を引き起こすことが知られているMeis1遺伝子が発達途上の小脳顆粒細胞とその前駆細胞で発現することを見出しました。Meis1遺伝子を破壊したノックアウトマウスでは、小脳が小さくなり、その内部構造が乱れてしまうことが判明しました。これらの結果はMeis1が小脳発達に必須であることを示しています。さらに同部長らは、(1)Meis1がPax6遺伝子の発現を誘導すること、(2)誘導されたPax6がBMPシグナルを促進すること、(3)そしてBMPシグナルがAtoh1の分解を引き起こし、(4)その結果として前駆細胞から顆粒細胞への分化を促進すること、を明らかにしました。

今回の知見により、これまで個別に明らかにされてきた小脳顆粒細胞の発生の分子機構を、Meis1というハブによって統合的に理解することが可能となりました。これは小脳にとどまらず、様々な脳部位での神経前駆細胞から神経細胞が生み出されるしくみの理解につながると考えられます。また、Meis1は一部の髄芽腫において異常に強く発現しています。Meis1は髄芽腫の発症に関与している可能性も考えられるために、今回の研究成果は広く今後の小脳腫瘍研究の発展に寄与すると考えられます。

この成果は、科学雑誌「Journal of Neuroscience(ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)」に平成30年1月31日に発表されました。

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