活動

2019年7月23日

精神的ストレス応答の個体差に関連した脳活動を発見(Scientific Reports2報)

本領域公募班代表である東京大学大学院薬学系研究科の佐々木拓哉助教らの研究グループは、ストレス応答の個体差を生み出す神経回路活動を見出すことに成功しました。

ヒトを含む動物は、生活の中で様々なストレス刺激に曝されています。しかし、同じようにストレス刺激を受けても、その反応は一様でなく、個体差が存在します。この性質は、動物の個性を形成する上でも重要です。これまで、ストレス応答に関する分子メカニズムや組織学的変化について、多くの研究がなされてきましたが、こうした個体差に着目し、具体的な神経活動を調べた研究はほとんど存在していませんでした。

本研究グループは、マウスやラットを用いて、他の強い動物から攻撃を受けるような社会的敗北ストレスを負荷しました。このストレス刺激を受けた動物は、様々な程度のストレス応答、すなわちストレス感受性の個体差を示します。こうした様々な動物において、大脳皮質に多数の電極を埋め込み、その神経活動を記録しました。1つ目の論文(Abe et al., Scientific Reports, 2019)では、ストレス応答の感受性が高い動物群において、腹側前頭前皮質の神経発火頻度が特に顕著に低下することを見出しました。2つ目の論文(Nakayama et al., Scientific Reports, 2019)では、動物がストレス負荷を受ける前の広範な大脳皮質活動を記録し、多数の脳波信号データに機械学習を適用して解析しました(図)。その結果、多数の大脳皮質領域で生じるデルタ波やシータ波など、特定の周波数帯の脳波強度の相関が、その後のストレス応答の感受性と関連することを見出しました。

本研究により、ストレス応答の個体差を生み出す脳神経活動の一端が解明されました。また、本研究成果は、心理的ストレスに起因したうつ病など精神疾患の発症リスク軽減や治療のための脳メカニズム解明に向けた布石になると期待されます。

本研究成果は、日本時間7月2日(火)(英国時間7月1日(月))に英国科学誌「サイエンティフィック・レポーツ誌」、および日本時間7月23日(火)(英国時間7月22日(月))、英国科学誌「サイエンティフィック・レポーツ誌」に掲載されました。

掲載誌

Abe R, Okada S, Nakayama R, Ikegaya Y, Sasaki T* Social defeat stress causes selective attenuation of neuronal activity in the ventromedial prefrontal cortex.
Scientific Reports, 9:9447 (2019)

Nakayama R, Ikegaya Y, Sasaki T*
Cortical-wide functional correlations are associated with stress-induced cardiac dysfunctions in individual rats
Scientific Reports, 9:10581 (2019)