活動
2019年12月13日
人類は不安やうつ傾向が高まる方向に進化した可能性を示唆
VMAT1 遺伝子変異の機能変化の解析から
本研究結果は、12月2日付でBMC Evolutionary Biology誌(電子版)に掲載されました。
東北大学大学院生命科学研究科の佐藤大気(博士後期課程学生)と河田雅圭教授(本領域公募班研究代表)らは、同研究科の永井友朗助教(研究当時、現福島県立医科大学助教)、大橋一正教授と共同で、神経伝達物質の輸送に関わるVMAT1遺伝子が人類の進化過程で経た機能的変化を明らかにしました。
同研究グループの以前の研究により、神経や分泌細胞内で分泌小胞に神経伝達物質を運搬する小胞モノアミントランスポーター1(VMAT1)遺伝子が、人類の進化過程で自然選択を受け、進化してきたことが示唆されましたが、その際に生じたアミノ酸置換(130Glu→Gly、136Asn→Thr)がVMAT1タンパク質の神経伝達物質の取り込みに与えた影響は不明でした。
そこで本研究では、チンパンジーとの共通祖先から人類の進化過程で生じた可能性のある5つのVMAT1タンパク質を人工的に再現し、蛍光神経伝達物質を用いて、各遺伝子型のVMAT1タンパク質の神経伝達物質の取り込み能力を定量、比較しました。その結果、人類進化の初期においてVMAT1タンパク質によるモノアミン神経伝達物質の取り込みは低下したことが明らかとなりました(図2)。130Gly/136Thrと強い不安・うつ傾向との関連を示している先行研究をふまえると、これは、人類進化の初期において不安やうつ傾向が強まる方向に進化した可能性を示しています。一方で、その後に出現した136Ile型が低不安傾向を示し、頻度を増したことをふまえると、過去と現在では神経伝達に関わる経路に異なる選択圧がかかっている可能性が考えられます。本研究成果は、認知や情動機能に関わる神経伝達物質の調節機構が、人類の進化過程で独自の進化を遂げた可能性を示しており、私たちの精神的個性や精神・神経疾患の生物学的意義について示唆を与えると期待されます。
図1. VMAT1(小胞モノアミントランスポーター1)の模式図と遺伝子配列の進化。神経細胞内でシナプス小胞にセロトニンやドーパミンといったモノアミン神経伝達物質を蓄える働きを持つ。人類の進化過程で130番目と136番目のアミノ酸座位に、それぞれグルタミン酸(Glu)からグリシン(Gly)、アスパラギン(Asn)からスレオニン(Thr)へ置換が生じている。
図2. 各VMAT1遺伝子型の神経伝達物質の取り込み効率。チンパンジーとの共通祖先(左)から人類系統に至る過程で、VMAT1の神経伝達物質の取り込みは減少する方向に進化した。一方で近年(約10万年前)、新たな遺伝子型であるIle型が出現し、こちらは神経伝達物質の取り込み効率が非常に高いことから、人類進化の初期とは異なる選択圧がかかったと推測される。
発表論文
Human-specific mutations in VMAT1 confer functional changes and multi-directional evolution in the regulation of monoamine circuits.
Daiki X. Sato, Yuu Ishii, Tomoaki Nagai, Kazumasa Ohashi, Masakado Kawata
BMC Evolutionary Biology, 2019, 19:220
プレスリリースはこちら
https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research/results/detail---id-49122.html
BMC Evolutionary Biology 掲載ページはこちら
https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-019-1543-8