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2020年3月10日

自閉スペクトラム症患者に生じている遺伝子突然変異が脳の発達や社会性に異常をもたらす分子メカニズムを解明
公募研究(A01)中澤敬信先生、公募研究(A03)勢力薫先生らの論文がNature Communicationsに掲載されました

自閉症は、社会的相互作用やコミュニケーションの障害、反復的行動、興味の限局、認知機能の低下など、多岐にわたる症状を示す疾患です。胎児期から始まる脳発達の異常によって発症すると考えられていますが、発症の原因やメカニズムは不明な点が多く残されており、多くの自閉症患者の発症の原因は不明です。また、根本的な治療法や主要な症状に対する薬物療法は存在しておらず、自閉症の発症のメカニズムの解明やそれに基づく創薬が求められています。自閉症は、孤発症例が多いことなどから、近年、健常者の両親には存在せず、患者(子ども)に生じる突然変異が疾患の要因の一つと考えられています。しかし、これまでに個々の突然変異による遺伝子産物の機能異常や、その変異の個体に及ぼす影響を解析した報告例はほとんどありませんでした。

大阪大学大学院歯学研究科の中澤敬信准教授らのグループは、自閉症患者から最も多くの突然変異が同定されているものの、その機能がほとんどわかっていないPogo transposable element with zinc finger domain (POGZ)タンパク質が脳の正常な発達に必要であることを発見しました。また、POGZに変異を持つ患者由来のiPS神経幹細胞の分化異常を見いだしました。さらに、ヒト型疾患モデルマウスを作製・解析することにより、突然変異によるPOGZの機能低下によって、マウス脳の発達期における神経細胞の発達、および自閉症と関連する社会性行動に障害を与えることを見いだしました。

図:患者iPS神経幹細胞(Patient)は健常者由来のもの(Control)に比べて神経細胞への分化能が低い

本研究成果により、健常者(両親)にはなく、患者(子ども)に突然生じる変異が、自閉症の原因の一つであることが示唆されました。本研究成果は将来的に、自閉症の発症の分子メカニズムに基づいた疾患の細分類化および患者選択的な治療戦略の構築に貢献することが期待されます。

この成果は科学雑誌「Nature Communications」に令和2年2月26日に掲載されました。

発表論文

Kensuke Matsumura, Kaoru Seiriki, Shota Okada, Masashi Nagase, Shinya Ayabe, Ikuko Yamada, Tamio Furuse, Hirotoshi Shibuya, Yuka Yasuda, Hidenaga Yamamori, Michiko Fujimoto, Kazuki Nagayasu, Kana Yamamoto, Kohei Kitagawa, Hiroki Miura, Nanaka Gotoda-Nishimura, Hisato Igarashi, Misuzu Hayashida, Masayuki Baba, Momoka Kondo, Shigeru Hasebe, Kosei Ueshima, Atsushi Kasai, Yukio Ago, Atsuko Hayata-Takano, Norihito Shintani, Tokuichi Iguchi, Makoto Sato, Shun Yamaguchi, Masaru Tamura, Shigeharu Wakana, Atsushi Yoshiki, Ayako M. Watabe, Hideyuki Okano, Kazuhiro Takuma, Ryota Hashimoto, *Hitoshi Hashimoto and *Takanobu Nakazawa. Pathogenic POGZ mutation causes impaired cortical development and reversible autism-like phenotypes. Nature Communications 11:859 (2020).

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