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2020年9月15日

生まれたての神経細胞が旅立つための最初期段階メカニズムを解明
~脳室面にくっついた神経細胞の足をDSCAMタンパク質が切り剥がす~

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所、病態生化学研究部の有村奈利子リサーチフェロー、星野幹雄部長(本領域計画研究代表者)らの研究グループは、生まれたての神経細胞が旅立つための最初期段階メカニズムとして、「DSCAM1)タンパク質が神経細胞の足の接着を脳室面から切り剥がす働きを持つこと」を発見しました。

哺乳類の脳には、膨大な数の神経細胞が存在し、それぞれの細胞は決まった場所でお互いに連結して神経回路を作っています。神経細胞は脳室(脳脊髄液で満たされた空間)表面に存在するラディアルグリア細胞2)から生まれますが、生まれた直後は神経細胞の足(終足と呼ばれます)が脳室面に接着した状態です。この接着が剥がされてはじめて神経細胞は移動を開始し決められた場所にたどり着くのですが、この過程がうまくいかないと神経発達障害や機能低下、てんかんの原因となります。しかしながら、神経細胞発生の最初期段階ともいえるこの「終足離脱」がどのような分子メカニズムで制御されているのかは、今までよくわかっていませんでした。

本研究グループは、脳発達時期の中脳において、DSCAMタンパク質が神経細胞の終足に濃縮してくることやDSCAMの機能を阻害すると終足が脳室面から剥がれなくなることなどを見出し、DSCAMが終足の離脱に関与していることを明らかにしました。さらに、様々な解析から、DSCAMタンパク質が、RAPGEF2タンパク質と結合することでRAP1タンパク質の活性を低下させ、その結果として終足の接着を維持している細胞接着分子3)Nカドヘリンタンパク質の量を減らすことで、終足の離脱を促進していることが明らかになりました。本研究は、神経細胞発生の最初期段階分子メカニズムを解明しただけでなく、その異常によってもたらされる様々な神経発達障害の理解にも繋がると考えられます。

この研究成果は、2020年 9月 3日(木)に科学誌Science Advances オンライン版に掲載されました。

【用語解説】

1)DSCAM
神経細胞に発現する一回膜貫通型の細胞膜タンパク質。ダウン症の神経症状に関係するという説もあるが、まだよくわかっていない。ショウジョウバエなどの無脊椎動物やマウス、ヒトなどの脊椎動物などで、神経細胞の配置や神経突起・シナプス形成などに関与することが知られている。しかし、神経細胞の脳室面からの離脱に関わるということが示されたのは、今回の研究が初めてである。

2)ラディアルグリア(細胞)
脳室に面した場所で細胞分裂を繰り返すことで神経細胞を生み出す、一種の神経前駆細胞。生み出された神経細胞はそれ以上細胞分裂せず、所定の場所まで移動・定着し、その後、神経回路を構成する。

【発表論文】

Arimura N, Okada M, Taya S, Dewa KI, Tsuzuki A, Uetake H, Miyashita S, Hashizume K, Shimaoka K, Egusa S, Nishioka T, Yanagawa Y, Yamakawa K, Inoue YU, Inoue T, Kaibuchi K, Hoshino M: DSCAM regulates delamination of neurons in the developing midbrain. Science Advances, 2020, 6 (36): eaba1693
DOI: 10.1126/sciadv.aba1693

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