活動

2020年1月10日

次世代脳プロジェクト冬のシンポジウム2019 活動報告

鹿児島大学法文学部 菅野康太

2019年12月20日(金)、次世代脳プロジェクト冬のシンポジウム2019において、「大隅・岡ノ谷領域合同シンポジウム 次世代の音声コミュニケーション研究に向けた議論(第2回USVs研究会)」を開催しました。

我々は過去に、大隅領域の若手の会・技術支援講習会の一環として、鹿児島大学で大隅領域の第1回USVs研究会を開催しました。USVsは超音波でなされる齧歯類の音声コミュニケーション、ultrasonic vocalizationsの略で、古くからラットやマウスの母仔間や雌雄間の行動研究で用いられてきた指標です。近年では、自閉症モデルマウスの行動指標としても用いられるなど、医学分野においてもその需要が高まってきています。また、このUSVsに関する国際連携を推し進めるために、大隅領域のデータ共有システム(データシェアリングプラットフォーム)の運用を開始し、USVsデータを広く公開しはじめました。

前回のUSVs研究会では、領域間共同研究を目指して岡ノ谷領域からも参加頂き、かなり踏み込んだ議論を行ったことで、実質的な共同研究へと発展しました。そこで今回は、岡ノ谷領域と合同でシンポジウムを開催する運びとなりました。USVsのみならず、音声コミュニケーション研究全体の今後を俯瞰し、個性研究や生物言語学研究、疾患モデル研究として今後どのように発展させていくべきかを、トピック面・手法面から議論することを目指しました。

登壇者は、博士課程の大学院生も含む若手で主に構成し、領域を横断するために必要と考えられる概念的・手法的なテーマを意識的取り上げました。対象もマウス・ラット・トリ・霊長類・ヒトと多岐にわたりました。現在進行形の研究データも発表され、かなりフランクなディスカッションが実現し、私個人としては、非常に楽しい時間を過ごしました。それと同時に、この研究領域の重要性や有用性のみならず、今後の研究に向けた困難さも再認識することとなり、各登壇者もしくは各領域としての問題意識が新たなフェーズに突入したことも認識しました。

現場での司会と内容のアレンジを担当させて頂きましたが、次世代脳という場をお借りして、好きなように企画をしてしまい、議論も楽しんでしまいました。登壇者のみなさま、ご来場くださったみなさま、ありがとうございました。

来場者からのコメント

A02公募班の野元です。USVs研究会は初参加でしたが、学問的興味をかきたてる有意義な研究会でした。音声コミュニケーションという共通の話題に対し、大隅・岡ノ谷領域それぞれの視点からの話題提供があり、最後のパネル討論に至る流れは、USVsコミュニケーションにおける至近要因の研究から始まり、究極要因まで視野に入れた素晴らしいものでした。個人的には森田先生がお話された新しい解析方法などとても興味深かったです。また、パネル討論における岡ノ谷先生のUSVsについての斬新な仮説(ここに書いていいかどうかは分からないので、詳細は出席した人に聞いてみてください)にはハッとさせられました。日頃研究室で実験しているとつい狭い視野になりがちなのですが、今回の研究会で広い学問的視野のもと自らの研究を捉え直す良い機会をいただけました。企画・運営してくださった菅野先生ならびに登壇者の先生方に心より感謝いたします。

プログラムおよび登壇者

  • 「はじめに」
    大隅典子(東北大学大学院 医学系研究科/「個性」創発脳)
  • 「議論の方向性の説明と齧歯類超音波発声の現在」
    菅野康太(鹿児島大学 法文学部人文学科/「個性」創発脳)
  • 「発声機構に即した音声解析の重要性 - 鳴禽と齧歯を対象として」
    橘亮輔(東京大学大学院 総合文化研究科/共創言語進化)
  • 「ヒトと動物の生物言語学的基盤」
    飯島和樹(玉川大学大学院 脳科学研究科/共創言語進化)
  • 「ラット超音波発声の音響的特徴とその情動的影響」
    齋藤優実(東京大学大学院 総合文化研究科/共創言語進化)
  • 「マウス超音波発声の発達軌跡と父加齢による影響」
    木村龍一(東北大学大学院 医学系研究科/「個性」創発脳)
  • 「種を超えた音声・歌の計算言語学的解析」
    森田尭(京都大学 霊長類研究所/共創言語進化)
  • 「パネル討論」
    指定討論者:保前文高(首都大学東京大学院 人文科学研究科/「個性」創発脳)
  • 「おわりに」
    岡ノ谷一夫(東京大学大学院 総合文化研究科/共創言語進化)